
アップセルとクロスセルとは?違いから課題、アプローチ方法まで徹底解説
企業の成長を持続させるためには、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客からの収益をいかに拡大するかが重要です。その中核となるのが「アップセル」と「クロスセル」です。これらは単なる売上向上の手段ではなく、既存顧客との関係性を深化させ、LTV(顧客生涯価値)の最大化を実現するための戦略です。特にBtoB市場においては、継続課金モデルが主流となり、既存顧客基盤をどれだけ長く・広く活用できるかが企業の成長スピードを左右します。
本記事では、アップセルとクロスセルの基本から具体的なアプローチ方法までを解説します。
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アップセル・クロスセルとは?
アップセルとクロスセルは、既存顧客からの収益を最大化するために欠かせないアプローチです。両者は顧客生涯価値(LTV)を高めるという共通の目的を持ちながらも、そのアプローチの切り口は異なります。まずはそれぞれの定義を整理したうえで違いと共通点、重要性について解説します。
アップセル:既存契約の「質」を高める提案
アップセルとは、既存の顧客が利用している製品やサービスについて、より上位のプランや高付加価値の商品へ切り替えを提案することを指します。たとえば、SaaSの場合は「スタンダードプランからエンタープライズプランへの移行」、小売の場合は「ベーシックモデルから上位モデルへの買い替え」が該当します。
ここで重要なのは、単純に顧客単価を上げることではなく、顧客の業務効率や成果をさらに高める提案を行う点です。つまりアップセルは「顧客にとっての利用価値を拡張する」提案であるといえます。
クロスセル:既存顧客に「横展開」する提案
クロスセルとは、既存顧客に対して関連する製品やサービスを追加で提案することを意味します。具体的には営業支援ツールを導入している顧客にマーケティングオートメーションを勧めるケースやPCを購入した顧客にマウスやモニターを紹介するケースが挙げられます。
このアプローチでは、顧客がすでに抱えている業務課題や利用状況を的確に把握し、その周辺にある潜在的なニーズを捉えることが求められます。クロスセルは顧客の利用範囲を広げ、総取引額を増加させる手法として有効です。
両者の違いと共通点
両者の違いをまとめると、次のようになります。
アップセル | クロスセル | |
提案対象 | 既存契約のグレード・機能 | 関連する別製品・サービス |
目的 | 利用の質・深さを高める | 利用範囲・幅を広げる |
成果 | 契約単価・利用頻度の増加 | 取引総額・接点数の拡大 |
一方で共通しているのは、いずれも 「既存顧客との関係性強化」 を基盤としている点です。新規顧客開拓よりもコスト効率が高く、顧客満足度を損なわずに売上成長を実現できる戦略としてますます重視されています。
なぜ今アップセル・クロスセルが重要なのか
アップセルやクロスセルは以前から存在する営業手法ですが、今あらためて注目されている理由は「LTV(顧客生涯価値)の最大化」です。
新規顧客の獲得コスト(CAC)は年々上昇しており、広告投資や営業リソースをかけても獲得効率が下がる傾向にあります。その一方で、既存顧客に対するアップセル・クロスセルは、追加コストを最小限に抑えて収益を伸ばせる効率的な手段です。また、既存顧客との関係を深めることで解約率を抑え、契約期間を延長できるため、企業全体のLTVを底上げする効果があります。
こうした「収益性と安定性」を同時に高められる点こそが、今アップセル・クロスセルが重要視される最大の理由です。
アップセル・クロスセルに取り組む上で直面する課題とは
アップセルやクロスセルは、既存顧客からの収益を拡大する上で欠かせない取り組みですが、現場ではスムーズに進められない壁がいくつも存在します。ここでは、その中でも特に多くの企業が直面している代表的な課題を整理します。
顧客接点の希薄化
BtoBサービス市場の拡大に伴い、導入から日常利用までがオンラインで完結するケースが増えました。その結果、従来のように営業担当が定期的に顧客と直接会う機会は減少し、顧客の新しい課題や潜在ニーズを拾いにくい状況が生まれています。
この「接点の希薄化」が進む環境では、既存顧客からのLTV最大化を意識した仕組みづくりが欠かせません。しかし、それを怠れば顧客の変化を見過ごし、アップセル・クロスセルの機会を失い続けることになってしまいます。
顧客満足度は守れても、収益拡大は難しいCSの現実
従来、既存顧客への支援はカスタマーサクセス(CS)が担ってきました。CSの主な役割は顧客の活用を促進し、サービスの定着を支援することです。そのため「継続率」や「顧客満足度」といった守りの指標を重視する傾向があります。
しかし、アップセルやクロスセルといった攻めの提案までカバーするのは容易ではありません。実際にCS担当者は日々のサポートや問い合わせ対応に追われ、営業的なアプローチを体系的に行う余力が不足しがちです。また営業スキルや提案経験を持たない場合も多く、積極的に受注機会をつくり出すことには限界があります。
「攻めの提案」を担うカスタマーインサイドセールス(CIS)の台頭
こうした課題背景を受けて注目されているのが「カスタマーインサイドセールス(CIS)」です。CISは既存顧客を対象とし、アップセルやクロスセルを専門的に担う営業チームを指します。
カスタマーサクセス(CS)との違い
CSが「顧客の満足度を守る」役割を担うのに対し、CISは「成果をつくる」役割を担います。両者が連携することで既存顧客基盤を守りながら収益成長を推進する体制が整います。
以下に、CSとCISの役割の違いを表で整理します。
項目 | CS(カスタマーサクセス) | CIS(カスタマーインサイドセールス) |
主な目的 | 活用支援・定着促進 | 追加提案・収益拡大 |
重視する指標 | 継続率、満足度向上 | 受注件数、提案率、LTV最大化 |
性質 | 守りの活動 | 攻めの活動 |
アプローチ | 課題解決を支援 | 成長機会を提案 |
CISの強み
CISの強みは、既存顧客に対して能動的にアプローチを行い、アップセルやクロスセルの機会を体系的に創出する役割を担います。その活動は単なる営業提案ではなく、顧客理解を深め、課題や潜在ニーズを可視化するプロセスを通じて行われます。ここではCISの強みを3つの観点から解説します。
【1】One to Oneマーケティングによる個別最適化
CISの活動の根幹にあるのは「One to Oneマーケティング」の考え方です。これは、顧客ごとの属性や利用状況、行動データに基づいて最適な提案を設計する手法です。
従来の画一的な営業アプローチでは拾いきれないニーズも、個別最適化を重視することで正確に把握できます。たとえば利用頻度が高まった機能をさらに拡張する提案や業務フローの変化に合わせた追加機能の導入提案などが可能になります。この個別最適化が、結果的に受注率やアップセル成功率の向上につながります。
【2】定期フォローと課題ヒアリングでニーズを可視化
CISは既存顧客への定期的なフォローを欠かさず行います。その過程で顧客の現状や課題を丁寧にヒアリングし、潜在的なニーズを把握します。
顧客からの問い合わせ対応にとどまらず、能動的に接点を設けることが重要です。これにより、「現在の課題」と「将来的な展望」の両面を理解し、タイムリーにアップセル・クロスセルの提案を行うことが可能になります。
【3】既存顧客の「隣」に潜むビジネスチャンスを発掘
CISの大きな特徴は、既存顧客の契約部署以外の未開拓部門を掘り起こせる点です。既存契約部署はすでに信頼関係や導入実績があるため、新規開拓よりも導入障壁が低い傾向にあります。そこに着目し、戦略的に仮説提案やPoC(実現可能性検証)を行うことで、企業・グループ全体のLTV最大化につなげることができます。
アップセル・クロスセルの具体的なアプローチ方法
アップセルやクロスセルを成功させるには、顧客との関係性を深めるだけではなく、適切なタイミングや状況を捉えた戦略的なアプローチが欠かせません。ここでは代表的なアプローチ方法を解説します。
契約更新前を狙ったアップセル戦略
契約更新の直前は、アップセルの絶好のタイミングです。顧客は更新可否を検討する際に、サービスの成果や不足点を改めて確認します。そのタイミングで新機能や上位プランを提案すれば、課題解決に直結する選択肢として受け入れられやすくなります。
たとえば、契約満了の2〜3か月前から課題ヒアリングを行い、解決策として追加ライセンスや上位プランを提示する方法が効果的です。こうした準備が、更新率の改善や平均単価の引き上げにつながります。
部門間・関連会社への横展開モデル
一つの部門で成功事例をつくった後は、その成果を他部門や関連会社に広げることがクロスセルの基本です。特に大企業では部門ごとに独立性が高いため、利用実績を「信頼の証」として横展開することが有効です。
この際には、以下の工夫が有効です。
- 初期導入部門での成果データを整理して提示する
- ユーザーイベントや勉強会に他部門の担当者を招く
- 親会社での導入実績をもとに、グループ会社への提案を進める
これにより利用範囲が自然に広がり、企業・グループ全体でのLTV最大化が可能となりまPoCす。取引規模の拡大や契約単価の向上に加え、グループ全体で統一的な活用体制が構築されることで、サービス提供企業だけではなく、企業側としてもガバナンス強化につながります。
休眠顧客への再提案で受注機会を創出
過去に導入したものの、現在は利用が減っている「休眠顧客」も重要な対象です。一度関係が途切れた顧客に対しても最新の機能や新サービスをPoCとして提案することで、再契約や全社展開につながるケースがあります。
実際に休眠状態にあった顧客へ再アプローチを行い、アップセルやクロスセルの成功率を大きく高めた事例も報告されています。これは、CISが積極的に「拾いきれていなかったニーズ」を発掘した結果だと言えます。
セールスリクエストが提供するCIS支援とは
カスタマーインサイドセールス(CIS)を自社で立ち上げようとすると、ノウハウや人材、仕組みの不足によって壁に直面する企業は少なくありません。
CISを自社で立ち上げる際のよくある課題
- 人材不足:営業経験と顧客理解の両面を持つ人材が少なく、採用・育成に時間がかかる
- 役割の曖昧さ:CSと営業の境界が不明確で、担当者間の業務分担がうまく機能しない
- 仕組みの欠如:提案機会を拾うプロセスや評価指標(KPI)が整備されていない
- データ活用の難しさ:CRMや利用ログを活用しても、どの顧客にどの提案を優先すべきか判断できない
- スケールの壁:数社なら対応できても、既存顧客が増えると属人的な活動では限界が来る
セールスリクエストは、このような課題を解消するために、CISの設計から実行までを一気通貫で支援するサービスを提供しています。その特徴は、従来の「紹介待ち営業」から脱却し、能動的にキーマンへアプローチして商談を創出する仕組みにあります。
支援サービス内容
セールスリクエストのCIS支援は、単なる営業代行ではなく、企業ごとに合わせたアプローチ設計を重視しています。具体的には以下のような機能を提供します。
- キーマンリサーチと部門横断展開:既存顧客内での意思決定者を特定し、横展開によって新しい接点を開拓
- 提案型アプローチ:製品理解に基づき、顧客課題に直結するアップセル・クロスセルを提案
- CRMを活用したプロセス管理:顧客データを基盤に提案の優先順位を可視化し、再現性ある活動を実現
これら3つの機能は個別に完結するのではなく、キーマン特定 → 仮説に基づく提案 → CRMでの検証と優先度更新という循環で一体運用することで、紹介待ちに依存しない商談創出を継続的に生み出します。結果として部門・グループ横断の拡張と契約単価の伸長を並行して実現し、LTV向上に直結します。
まとめ
アップセルとクロスセルは、既存顧客の価値を最大化するために欠かせない戦略です。特にBtoB領域では、カスタマーサクセスだけでは拾いきれない機会をカスタマーインサイドセールス(CIS)が能動的に発掘する仕組みが重要になります。
CISはOne to Oneマーケティングによる個別最適化や定期フォローを通じて顧客理解を深め、契約更新、部門横展開、休眠顧客再提案など多角的に提案機会を創出します。
さらにセールスリクエストのようなインサイドセールス代行会社の支援を活用すれば、キーマンリサーチやCRM活用に基づく再現性ある営業活動を構築でき、短期間での成果創出とLTV最大化が可能となります。既存顧客との関係を「守る」から「広げる」へと進化させることこそが、持続的な事業成長の鍵となります。
あわせて SalesZineの記事 でもセールスリクエスト社長の原が、アップセル・クロスセルの重要性や実践のヒントが解説しています。ぜひこちらもご覧ください。